夢を叶える145☆セルフイメージの変容と引き寄せ
今回は、「比較優位説」のお話しです。
「比較優位」は、本シリーズのテーマ「強みを活かす」の根底の考え方です。
【思考実験】「強み」と「弱み」で夢を叶える⑧ 絶対優位と比較優位
交換しよう
本来の「比較優位説」は、デヴィッド・リカードという経済学者が提唱した概念で、大学の経済学の授業では、初期に習うものとして有名です。主としては貿易の問題を扱うときに、国と国とが、どれぐらいの割合で商品を生産して、交換するのが、最も有益かを考える指針となる考え方です。経済学という学問は、世の中に生きる私たちや企業(これを「経済主体」といいます)が、様々な制約があるなかで、いかに合理的で有益な選択をするべきなのかを考えたり、あるいは国にとって最も便益の高い意思決定とはどういうものかを研究したりする学問です。要は、どういう選択をすれば、私たちの満足の度合い(=効用)が最大化するのかを、様々な角度から考えるものです。「比較優位説」は、こういった経済学の考えに、大きな影響を与えている理論なのです。
「比較優位説」とは、国同士が自由に、モノやサービスを貿易で取引する場合、それぞれの経済主体(ここでは国)が自らの得意分野(すなわち「強み分野」)に特化して生産活動を行い、それらを交換することで、より高品質で大量のモノ・サービスを世の中に提供できる、という理論です。つまり、国が農産物や工業製品を全てを独自に生産するよりも、より高品質で大量の生産物を生み出せる方に特化する方が、交換という前提に立つのであれば、より多くのモノを生み出せるということです。
実は、この理論が提唱された当時は、「比較優位」ではなく「絶対優位」こそが、正しい生産活動だと考えられていました。
絶対優位
「比較優位説」がいかに画期的だったかを理解するうえで重要なのが、「絶対優位説」との比較です。リカードが登場する以前は、「絶対優位説」が主流でした。ちなみに「絶対優位説」という用語自体は、後づけで考えられたものですから、当時からこのように呼ばれていたわけではありません。
さて、カボチャという商品とヒヨコという商品について、日本とアメリカを比較する思考実験をしてみましょう。
日本では、1単位のカボチャを生産するのに6人の人間が必要で、ヒヨコという商品には3人が必要だとします。対するアメリカでは、1単位のカボチャの生産に8人必要で、ヒヨコに関しては1単位あたり12人必要だと考えてください。もし「絶対優位説」に従うならば、カボチャもヒヨコも日本の方がアメリカに対して生産効率がいいので、日本は自国でどちらの商品も生産すればよいと考えるのです。なにも効率の悪いアメリカのものを買う必要はないからです。つまり、カボチャもヒヨコも、日本にとってはアメリカに対して完全に優位な生産ポジションですから、貿易なんかする必要はないと考えるのですね。
これが絶対優位説といわれるものです。リカードが登場する以前のヨーロッパの国々は、この考え方が主流だったのです。しかし、リカードが比較優位説を提唱してからは、様相が変わりました。たとえ日本がどちらの商品も効率的に生み出せるとしても、特に効率のよい方の商品だけをつくって、他の商品は「比較的」生産効率のよい国に任せて交換をした方が、全体として考えればより多くの生産物を生み出せるのではないか?と彼は考えたのです。
比較優位
ここでポイントになるのが、両国の労働者の数を一定として、それぞれの国がカボチャとヒヨコを「専門的に特化して」生産したときに、「諦めなくてはならない方の生産物」に注目することです。ちなみにこれを「機会費用」といいます。
- もし日本がカボチャの生産に特化すれば、カボチャを1単位生産するのにヒヨコを2単位諦めなければならないことになります。一方、アメリカではカボチャを1単位生産するときに、諦めなければならないヒヨコの単位は2/3です。
- ヒヨコに特化した場合は、日本は1単位のヒヨコに対して1/2単位のカボチャの生産を諦めなければなりませんが、アメリカでは1.5単位のカボチャの生産を諦めなければなりません。
このように「生産を諦めなければならない単位」に注目することで、アメリカにも有利な点があることがわかってきます。日本はたとえカボチャ、ヒヨコ、どちらの生産においても絶対優位のポジションを確立したとしても、アメリカに比較的生産効率のよいカボチャを生産してもらって交換したほうが、全体としてみると、より多くの生産物を得られることになるのです。それぞれの国において、「諦めなければならない単位が少ない方」を「比較優位にある生産物」といいます。
簡単に計算してみましょう。日本・アメリカともに、便宜上48人の労働者がいるとします。それぞれの国が、カボチャとヒヨコを自給自足で半分ずつ生産するために、24人ずつの労働者を投入すると考えると、日本の生産するカボチャの単位は24/6で「4」であり、ヒヨコは24/3で「8」です。対してアメリカはカボチャが24/8で「3」単位で、ヒヨコは24/12で「2」単位となります。これらを合計するとカボチャが「7」でヒヨコが「10」となり、全部で「17」単位の生産物が得られることがわかるでしょう。
では、それぞれの国が比較優位をもつ生産物に、48人の労働者を全て投入すればどうなるでしょうか?ヒヨコは日本が比較優位を持つので48/3で「16」単位ものヒヨコを生産することができ、カボチャはアメリカが比較優位生産物ですので48/8で「6」単位を生産できます。合計すると「22」単位の生産物を生産することができるわけです。これはそれぞれが半分ずつ自給自足したときの「17」単位を遥かに上回る数字であることは一目瞭然です(ちなみに逆に、日本がカボチャに特化して、アメリカがヒヨコに特化すると、合計で「12」単位になります)。
つまり、全体的な生産物の量を問題にするのならば、それぞれの国が自給自足するよりも、より生産が得意なモノに特化して、それらを交換した方が、双方の国にプラスになるのです。この「比較優位」の考えこそが、このシリーズの「強みを活かせ」という提言の理論的支柱なのです。
次回に続きます。
成果をあげるエグゼクティブは、人間の強みを生かす。彼らは、弱みを中心に据えてはならないことを知っている。成果を上げるには、利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自分自身の強み、を使わなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことが、組織の特有の目的である。
ピーター・ドラッカー「経営者の条件」
まとめ
【思考実験】「強み」と「弱み」で夢を叶える⑧ 絶対優位と比較優位
- 「比較優位説」は、それまでの「絶対優位説」の考え方に対抗して登場した。
- 「比較優位説」は、現代の経済学にも大きな影響を与えている。
- 「強み」を活かすことの重要性は、「比較優位説」に現れている。
著者プロフィール
- WEB制作・マーケティング業に従事。各種WEBメディアにて、ビジネス系記事の寄稿もしています。
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