春一番が吹く前に、やっておかねばならないなあと思っていたことを、そのままそっくりやり残したまま、鶯が鳴きました。桜のつぼみが膨らむ前に、歌おうと思っていた歌を、口ずさむこともないままに、花びらはみんな散ってしまいました。土筆が顔を出す前に、仕立ておこうと思っていた着物は、布地にはさみも入れないうちに、野は青々と茂り始めました。お店に蓬餅が並ぶ前に、読み終えてしまおうと思っていた詩集を、いっぺんも開かないうちに、金魚の模様の器に入ったくずきりが売られるようになりました。紋白蝶の卵が孵る前に、刈りあげてしまおうと思っていた頭は、相変わらず伸び放題のまま、蛹は羽化して空へ飛び立ってしまいました。
春が待ち遠しいと思いながら、ぼんやりしていました。春になったらああしよう、こうしようと、あれやこれや思いを巡らせていました。巡らせながら、空を眺めていました。雲を数えていました。風の音を聞いていました。ぼんやりしていました。いささか、ぼんやりしすぎたようです。いつの間にやってきたのやら、いつの間に行ってしまったのやら、春よ。